池谷祐二氏と糸井重里氏の対談書、『海馬-脳は疲れない-』を購入したのは「bookcafe KUJU」。Cafeと古本屋が同居したようなところで、さらっとこれを手に取った。
こんなところでこの本を見つけるには何か意味があるだろうと思って購入したのだが、定価590円の古本が350円と高かった。
・・・しかし、その内容はその10倍の3500円を払っても足りないぐらいだった!
以下、抜粋
・池谷氏 脳のはたらきがいいとは何だろう、という問いを目の前にすると、科学者ならば「いったん、『脳のはたらきが悪いって何だろうか?』と反対の方向から考えてみよう」という思考に入るでしょう。その逆側にあるものが「脳のはたらきがいい」ということになるから。
その手順でかんがえてみますと、例えば、脳からの出力が正常であっても、脳への入力がない人は、まずはたらきが悪いですよね?
もちろん、難しいことを言われれば誰だって入力しにくくなりますけれども、わかる言葉で話しされていることが理解できなければ、それは自分の記憶の整理ができていないということになるのではないでしょうか。
糸井氏 -でも苦しい時、人って真っ白になりがちですよね。入力も出力もできないまま止まるんです。ディスコミュニケーションに陥る時って、真っ白になっていますね。ぼくは経験から言うと、真っ白にならないテクニックがあると思ってるんです。「自分は真っ白になっていない」と思い込むっていうものなのですが。
・池谷氏 脳はもともとも思い込みの強い性質があることから、それをいかに崩せるかが「頭がいい」ことの一つのヒントかと思います。
・ネッカー・キューブ



・池谷氏 ぼくは「記憶メモリー」よりも「経験メモリー」の方を重視しています。30代からの頭のはたらきがよくなるとぼくが言っているのも、「脳が経験メモリーどうしの似た点を探すと、『つながりの発見』が起こって。急に爆発的に頭のはたらきがよくなっていく」ということだととらえているのです。
最初のチカラを1としますと、べき乗(例えば2の何乗)で成長していきます。つまりAを憶えたあとにBを憶える時には、Aを憶えたことを思い出してやるので、まず方法を記憶しやすくなるんです。
そのうえにAとB2つを知るだけでなく、Aから見たB、Bから見たAというように、脳の中で自然に四つの関係が理解できるんです。つまり2の2乗ですね。
1の次は2。2の次は4。4の次は8。8の次は16・・・。
16のチカラの時には、1000なんて絶対に到達できないように見える。しかし、そこから6回くりかえせばできてしまうんです。2の10乗は1024ですから。
そのままあきらめずにくりかえしていると、2の20乗まで行ったとしますよね。10回目で1024だったチカラは、1048576、100万を超えています。
凡人と天才の差よりも、天才どうしの差のほうがずっと大きいというのは、こうやって方法を学んでいく学び方の進行が「べき乗」で起こり、やればやるほど飛躍的に経験メモリーのつながりが緊密になっていくからなのです。
・池谷氏 脳の頑固さとはそういうもので、「1回分類をしてしまうとそれ以外の尺度では分類できなくなってしまう」という性質がある。
・池谷氏 何もない環境にいたネズミを刺激的な環境に移すと数日で海馬が増えます。逆に、刺激にある環境から何もないところに移すと、ネズミの海馬は数日でダメになります。
海馬にとっていちばん刺激になるものは空間に情報です。つまり、旅をするほど海馬に刺激が与えられると推測できます。
・池谷氏 海馬の神経細胞あぜんぶで1000万ぐらいありますが、それに仮に1,2,3,4・・・と番号を振ったとします。今僕は2番と5番を使って話しているとしますよね。そうすると今度寝ているあいだには、「朝は一番を使ったなぁ。夜中には4番おつかっていたな、夕方には2番と5番を同時につかって糸井さんと話をしていたよな」と思い出しながら、急に2番と4番をつなげたり、2番と1番をつなげたり・・・新しい組み合わせを作り出してみるんです。それで整合性がとれるかどうかを検証しているようなのです。そのあいだに眠っている必要がなぜあるかと言うと、外科医をシャットアウトして、余分な情報が入ってこないようにして、脳の中だけで正しく整合性を保つためです。
・池谷氏 「やる気は側坐核からうまれる」と言いましたが、そのやる気をいかに持続するかもとても重要になります。
小さなコツとしては、「自分に対して報酬があると、やる気が出る」などということがありますが、内発的な達成感などもやる気を生み出します。
達成感がA10神経という快楽にかかわる神経を刺激してドーパミンという物質を出させ、やる気を維持させる。
達成感という快楽をいかに味わうかと言うと、「目標は大きく」ではなく、「目標は小刻みに」と心がけるほうがうまくいくようです。もちろん、大きな目標を持つことはたいせつなのですが、「今日はここまでやろう」とか、「一時間」でこれをやろう、と実行可能な目標を立てると、目標を達成しするたびに快楽物質が出て、やる気を維持できます。
心理学の言葉で初頭効果と終末効果と呼ぶのですが、テスト時間内の最初と最後に能率があがるように、あることのはじめと終わりには仕事がはかどるんです。それを逆手に取ると、たとえば一時間何かをやるにしても、30分が2回あるんだと思うと、はじめと終わりが1回ずつ増えるから、よりはかどる・・・。脳の心理戦というか脳をだますことによってアセチルコリンやドーパミンを出させるというのは、誰でもできることなんです。(アセチルコリン=酸化防止剤で、死にゆく神経細胞をとめることができる物質)
・池谷氏 サルを使って実験をしている友達がいるんですけど、彼は、サルにマルと楕円の違いを教え混む時には、最初からマルと楕円を区別させようとしても、ぜんぜん覚えてくれないと言っていました。マルが出たらレバーを押すようにしつけることだけなら簡単にできる。だけど、そのままだと、楕円が出た時にもレバーを押してしまいます。この時にぼくの友達だちがやったことは、中間の課題としてマルと三角を区別させるんですよ。それは区別がつくんですね。そして成功した時にエサを与えるように訓練すると、いつしかマルと楕円を区別できるようになる。だんだんと微妙な違いがわかるようになるわけです。つまり、自分が今どういうレベルにるのかをわきまえていないと、非効率的にものごおを追求していまう危険性があるんですね。一足飛びには無理なのだったら、まずは途中にあたる課題に取り組んだ方がうまくいきます。スモールステップアップと言いますか。
しかも、学習の過程で、より多くのミスをしたサルのほうが将来的には記憶の定着率がいいのです。
脳は、消去法のように、「ミスをした方向に再び進まないように次の道を選ぶ」という性質があります。三角なのにレバーを押してしまって罰を受けたら、これはむしろ脳にとっては飛躍のチャンスなんですね。「これは違うんだ」とわかったうえで、次の道を選べるから。失敗をくりかさないと、あまりかしこくならないです。
脳をはたらかせる細かいコツはたくさんあります。・・・偏桃体をいちばん活躍させる状況は、生命の危機状況です。だから、ちょっと部屋を寒くするとか、お腹をちょっと空かせるという状況は、脳を余計に動かします。寒いのは、エサの欠乏する冬の到来のサインですし、お腹を空かせるのは直に飢えにつながりますから。
・池谷氏「やる気がない場合でも、やりはじめるしかない」のです。やっているうちに側坐核が自己興奮してきて、集中力が高まって気分が乗ってきます。「仕事をやる気がしないと思っても、実際にやりはじめてみる」というのはかなりいい方法でしょう。
・池谷氏「いくつかのパターンを組み合わせて、ニンジンを脳の中でかたちづくる」と推測できるわけです。
図パターンAとBとCとDと・・・組み合わせて、はじめてニンジンが想定されるわけだし、ほかのものを見た時には、また違う情報がいくつか組み合わされて、ものを認識します。そう考えると、今見つかっている500パターンだけでも、十分にたくさんのものを認識できることになります。その中から適当に10個組み合わせるだけでも、10の20乗あるぐらいの膨大な組み合わせを作ることができます。だからこそ、天文学的な数の世の中に物体を認識できるわけです。
・池谷氏 「認識を豊富にしてネットワークを密にしていく」ということがクリエイティブな仕事というものに近づいていくヒントかなと思いました。
糸井氏 それって頭をよくする方法でもありますね。
池谷氏 そうなんです。
糸井氏 発想力や創造力と言われるものは、脳を研究していくと、記憶力の話になるんですね。新しい記憶の体系をつくることが、クリエイティビティなのか。
池谷氏 そういうことですね。ひとつ認識パターンが増えると、組み合わせは飛躍的に増えます。
・池谷氏 「脳は使い尽くすことができる」と気づきさえすれば、どんな年齢であっても、脳を使い尽くすほうに枝分かれできるんです。それを認識するかしないかで、ずいぶん違うとおもいますよ。
ある時にふと、「これおもしろいなぁ」と思って、自分の視点にひとつ新しいものが加われば、脳の中のパターン認識が飛躍的に増える・・・。それをくりかえせば、人の考えというのは驚くほどおもしろいものに発達するんです。
新しい視点を加えることは自分ど努力でできるし、教えてもらったりして外部から影響を受けることもできる。そのこと自体には、何にも難しいことはないというか、誰にでもできることだと思います。
・池谷氏 妬みってつまり、可塑性というポテンシャルを持ちながらそれを発揮できないジレンマからくる、と官会えると把握しやすくなりますね。
・池谷氏 言語化することのいい面と悪い面ってすごくありますね。言語化することで何かが明確になる場合と、言語化することで固定観念がつくられてしまう場合と・・・。
糸井氏 体系化しようとしたり、論理として組み立てていく時には、乱暴や無理や強引を入れこんじゃうんですよね。
・心とは脳のプロセス上の産物にほかならない。つまり、心は脳が活動している状態を指す。物体ではない。脳を細分化しても心はどこにも見いだせないだろう。車を部品にかいたしたところで「スピード」というものがどこにも表れないのとおなじことである。スピードは車の動きの状態のことだ。
脳をプロセスとして捉えなおすと、随分と見通しが良くなる。経験、学習、成長、老化。人の本質とは、「変化」である。この本でも重視してきた「可塑性」だ。脳がコンピュータち決定的に異なる点は、外界に反応しながら変容する自発性にある。
だからこそ、プロセス重視の生き方がより人間らしい存在に直結すると、私は自信をもって言える。問われるものは、結果そのものではなく、そこに至る過程であると。
それは目に見える外的変化だけに限らない。たとえば、「優しさ」という人の内部情動を考える際にも有用だ。優しさとは支援、救助、保護といった具体的な結果を指すのではない。むしろ、他社を思い、労り、煩うというプロセスこそが、「優しさ」の枢要な基幹をなしている。この点は、愛情や憎悪を含め、人間の云為すべてにおいて同様である。それゆえに、「可塑性」の重要性はますます高まる。
・こうして考えると、人のプロダクティブな活動はすべて、つながりの発見に根ざしていることが理解できる。幾多の次元で材料を編纂しながら人は生きている。試行錯誤、探求と失敗を繰り返し。人生はいわば編集作業だ。私たちの存在目的の少なくとも一つは、過去の文化遺産を受け入れ、それに府係を与え、未来に引き渡すことにあるように感じる。言葉しかり科学しかり、料理しかり。だからこそプロセスをたのしまなければいけない。これは人の営みである。
・外界にアンテナを巡らせることはつながりの発見には必須だ。情報入力のためのアンテナ、これを認識力と言い換えてもよいだろう。入力なくして出力はありえない。そして次に問われることは、認知された情報に、いかに新規な視点を付加するか。いうまでもなく、この過程こそが全行程の律速だ。と同時に、個性顕示の場でもある。このプロセスでは「偶然の要素を増やすことがコツ」と糸井さんは説いた。つまり、発見もまた個人のアンテナで感受するというわけだ。
・池谷氏 頭のいいひとは、ひとりでなんでもできてしまいますよね。逆に頭のわるい人は、他人と協力しあわないとやっていけないから、そういう共同作業から生まれる進化や変化って、ものすごく多いと思うんです。ネットワークは進化を加速します。この意味では、ひとりでなんでもできてしまう人は進化しない・・・つまり、人の脳はほんとうはもっともっと頭がよくなりえたかもしれないんだけれども、実際は能力が低いままなので、そして能力が低いからこそ横のネットワークが強まって、ここまで高度に進化したんじゃないかという考えかたもできるわけです。


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